電動アシスト自転車の未来。その可能性と問題点を考えてみた

漕ぎ出しでふらつかないが

現時点で電動アシスト自転車のメインユーザーは子どもを送迎するお母さん達だ。

最も恩恵を受けるのは漕ぎ出し時で、前後にお子さんを乗せると車重も含めて100kgを超える乗り物だから動かすには相当な力が必要になる。それを、いとも簡単に発進させてしまうのには感動する。
脚力が弱く普通のママチャリだと漕ぎ出し時ふらついて怖いと語るお母さんも多いが、最近のモデルは踏力に対して最大2倍の力でアシストしてくれる。サドルにまたがりグッと踏めばスーッと進むから、一度体験したら普通のママチャリには戻れないと言うのが良く分かる。

さらに漕げばあっという間にスピードが出る。これは快適だ、送り迎えが楽になった。あっ、歩行者が飛び出して来た。ブレーキが間に合わないー!! ドーン。電動アシスト自転車が増えて、そんな事故も増えている。

ブレーキだって確実に進化しているが、お母さん達は握力の弱い方が多いし、第一100kg超の重量物が急に止まれるわけがない。まして赤信号無視や、左右見境なく走ったりすれば事故が起きないわけがない。

スピードが出過ぎて赤信号で止まれなかったら・・・
スピードが出過ぎて赤信号で止まれなかったら・・・

実は自転車の通行が認められた歩道であっても歩行者優先で徐行(すぐに止まれる速度/時速6〜8km)し、車道寄りを通行するのが道路交通法(以下、道交法と略)の定めなのだが、電動アシスト自転車で徐行するのは至難の技。軽く漕いでも時速15kmくらいはすぐに出てしまう

本来、歩道は歩行者のための空間で、自転車は通らせてもらっている立場なのだから、せめて歩行者の多い歩道を通る時はアシストを切るなり、場合によっては自転車から降り、押して歩くなりの配慮が欲しい。

お母さん達にヒアリングすると約9割の人が自転車は原則車道だと知っているけれども、実際に走る人はごくわずか。クルマが脇を飛ばすので怖い、後ろが見えないので怖い、子どもを乗せているので怖い。
でも同じように歩行者達から、電動アシスト自転車は背後から音もなく接近し高速で追い越して行くからと怖がられていることをご存知だろうか?

車道では弱者だが、歩道では強者。しかも電動アシストによって脚力が増幅されているから、走る凶器になっていることを十分認識したい。

自転車事故で何千万円という賠償金を請求されるケースも目立つ。なおかつ、2010年以降は歩道上で起きた自転車と歩行者の事故の場合、裁判になると10:0で自転車が完全悪者から審議開始することになっている。
ひき逃げは更に重罪だ。電動アシスト自転車の歩道通行を認めている限り、今後も事故は増える一方である。

自転車事故の賠償請求について
自転車事故の賠償請求についての知識がない人が3割近くもいる

お母さん達にも車道走行を

弱者保護の観点から歩行者より強者である自転車は道交法の定め通り、原則として車道左側を走るべきだが、どうすればいいか。議論を待つまでもなく、車道を安全に走れるようにすると共に、自転車の走行位置はここだと明示することだ。1960年に道交法が出来てから今日まで自転車の走行位置は車道左側で変わらないが、長らく現場では歩道へ誘導して来た。

このねじれを解消すると警察自体が決めて、警視庁は3カ年で1,000kmに及ぶナビラインを設置するそうだが、もしナビラインが走行空間明示の最終形なら電動アシスト自転車はいつまでたっても車道を走ることはない
ナビラインはクルマのドライバー達に向けて自転車も車道通行、クルマの仲間なのだと認識してもらう目的がある。まずはスポーツバイクユーザーが揃って車道を走るようになり「自転車は車道」が常識になれば、歩道の自転車は肩身が狭くなって遠慮がちに通行するようになる。これこそ第一フェーズの目標だ。

ナビライン設置だけでは問題解決にならない
ナビライン設置だけでは問題解決にならない

先日もテレビに呼ばれて何を訊かれるのかと思ったら「ナビラインは安全か」というテーマだった。あれで全て解決できればいいが、40年以上かけて歩道通行が定着したものを車道へ戻すのは口で言うほど簡単ではない

それでも超高齢社会において従来通り自転車の歩道通行を容認し続けていると必ず将来に禍根を残す。
お母さん達だけが悪いわけではないが、時間を掛けて切り替えていく必要がある。生活道路はともかく、幹線道路は歩行者・自転車・クルマが住み分けられるようにして行く。そして街中のクルマには速度を落とさせる。ハードを作ってオシマイではない

歩行者・自転車・クルマが住み分けが大きな課題だ
歩行者・自転車・クルマの住み分けが大きな課題だ

車道走行のインセンティブを

自転車は車道走行がルールだからと、お母さん達の首に縄を巻いて引きずり下ろすわけには行かないので、車道を走るメリットを感じてもらう複数の施策が必要である。
まず、これまで自転車はどこを走るのか明確でなかった反省を踏まえ、車道に連続した走行空間(ネットワーク)を作る。お母さん達を集めてルール講習をするには限界があるので、どこを走ればいいか一目瞭然にする。

一度車道を走ると段差がなく快適に走行できることに気づくはず。あとは不安を払拭する必要があるが、電動アシスト自転車の販売時に右側だけでもバックミラーを標準装備にすべきではないか。
排気量50cc未満の原付バイクでも右側ミラー装備のみ義務だが、あれは車道を走る上で必要だから義務にしてある。後方から来るクルマが1台なのか連なっているのか、乗用車なのかトラックなのか、速いか遅いかが分からなければ不安になる。当たり前の話だ。ミラー無くして車道を安全に走れる自信は筆者にもない。歩道では追い越されないので不要のミラーだが、車道では無いと不安だ。

後ろから車が来ると分かっていれば安心できる
後ろから車が来ると分かっていれば安心できる

それに加えて車道へ誘うには、何らかのインセンティブが必要だと感じている。
望んで車道を走りたくなるような魅力を作る。電動アシスト自転車の場合バッテリーを充電する必要があるので、交差点で止まるたび非接触で充電できる設備が至る所にあればどうだろう。技術が進歩すれば、あながち夢物語でも無さそうだ。

ICチップを搭載してGPSで個体管理が出来れば車道走行の距離に応じたポイント付与も考えられる。走った距離に応じてT-POINTやPonta、楽天など共通ポイントがもらえると分かれば走る人は増えるだろう。仲間を増やして声を大きくし、早い段階で構造分離の自転車道を増やしたい。今の車道走行者数では構造分離を訴えても利益享受者に偏りがあって税金投入は難しい。

走るだけでポイントが付くとなれば積極的に車道を走る人も増えるだろう
走るだけでポイントが付くとなれば積極的に車道を走る人も増えるだろう

電動アシスト自転車の可能性

子どもの送り迎えに威力を発揮する電動アシスト自転車だが、ポテンシャルは高く将来性は大きい。何度も書くようだが、ヨーロッパではE-BIKEと呼ばれる電動アシスト自転車が本家の日本を遥かに凌駕する進化をしている。クルマと並んで走れるほど速度が出る物もあり、ヘルメット無しでは怖いが自己責任の社会なので、着用は本人の意志に任されている。

日本でも電動アシスト自転車の規格を緩和して時速24kmでアシストゼロだけではなく、それ以降もアシストする速い電動アシスト自転車を新たに認めて原付カテゴリーに入れ、ヘルメットとナンバープレートを着けてもらうけれども、普通自動車の免許があれば運転できるようにしてはどうだろうか。
速い電動アシスト自転車に関しては車検や自賠責保険も検討すべきだろう。自転車活用推進法が施行された直後の今がチャンスだ。このままでは、日本の電動アシスト自転車もガラパゴス化してしまいかねない。

とは言え、「てんでんこ」ボタンひとつでも前に進まない。地震による津波が押し寄せた際に高台へ向け電動アシスト自転車で逃げるような場合、そのボタンを押せば時速24kmを超えてもバッテリーの持つ限りアシストするという仕組みだが、役所の担当者は首を縦に振らない。これは人命救助の道具だと言っても誰が安全の責任を取るかで揉めている。実に嘆かわしい。

日本ではママチャリのイメージが強い電動自転車だが、海外ではスポーツタイプにも積極的に採用されている。
日本ではママチャリのイメージが強い電動アシスト自転車だが、海外ではスポーツタイプにも積極的に採用されている。

脚力の衰えた人でもアシストがあれば気兼ねせず出掛けられるし、若い人の足を引っ張ることなく長距離ライドを楽しむことができる。鉄道と組み合わせてE-BIKEの旅を楽しむ老人達がヨーロッパでは大勢いる。また普段はスイッチを切っておき、いざという時だけ助けてもらう手もある。その選択肢があるかないかは大きい。

子どもの送り迎えだけに使うなんてもったいない。電動パパチャリも登場して人気だし最近レジャーモデルも増えて来たから、これを機に自転車デビューする人が増えてくれると嬉しい。
コアな自転車乗り達の中には電動アシスト自転車なんて所詮は家電だから邪道だと蔑んで見る向きもあるが、何ら気にすることはない。車道を走って歩行者を脅かさず適度な運動にもなり、亭主元気で外出が増えれば世の奥様達も喜ぶだろう。多くの人にとって平和な社会になる。

自転車関連の報道を見る限り危険な乗り方や迷惑な行為で取り上げられる機会もまだ多いが、決して自転車が悪いわけではなく、乗る人が評価を落としているだけだ。電動アシスト自転車が今後ますます増えて人々が平和で健康的な社会になれば、日本の未来にも希望の光が見えてくる。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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